『斬魔大聖デモンベイン』私註 2


・原則として、作品名は『』、引用部分は《》で示した。
・H.P.ラヴクラフトの作品は、特に注記のない場合は創元推理文庫『ラヴクラフト全集』内のタイトルを記してある。ただしThe Dunwich Horrorは『ダニッチの怪』ではなく『ダンウィッチの怪』とした。

目 次
第9話 QUO VADIS
第10話 BIG "C"
第11話 THE CROW
第12話 THE HUNT
第13話 BLADE RUNNER
第14話 THE RETURN OF THE SORCERER
最終話 STRANGE EONS※*
 ※アルルート
 *項目立ては、トゥルーエンド〜バッドエンド〜ノーマルエンドの順

デモムービー〜第8話(別ファイル)
参考文献(別ファイル)



 

第9話 QUO VADIS

──主は、恵みの倉、天を開き、時にかなって雨をあなたの地に与え、あなたの手の業すべてを祝福される。
 旧約聖書「申命記」28章11-12節。

ウィル・オー・ウィスプ will-o'-the-wisp
 旅人を惑わす鬼火。イギリスの伝説。

QUO VADIS
 ラテン語「何処へ?」。
 タキトゥス『年代記』によれば、64年のローマ大火の際、火をつけたのは皇帝ネロであるとの噂が立った。ネロ帝はこの噂を打ち消すため、多数のキリスト教徒を放火犯として処刑したという。これに関連した2世紀ごろの伝説に次のようなものがある。ペテロはこのとき難をのがれローマを離れつつあったが、その途上でキリストに出会った。ペテロは驚き「主よ、何処へ行きたもうのですか」(ドミネ−クォ−ヴァディス)とたずねた所、「ローマへ行って十字架にかかるのだ」との答があったので、ペテロは大いに恥じ入り、ローマに戻って殉教した。これは新約聖書外典ペテロ行伝に記されている。また現代では、ポーランドのノーベル賞作家シェーンケヴィッチの小説『クォ・ヴァディス』により有名である。

──血の復讐をする者は、自らその殺人者を殺しても良い。彼と出会ったときに、彼を殺しても良い。
 旧約聖書「民数記」35章19節。

円は銃弾の竜巻と化し、銃弾の龍に化け……
 古橋秀之『ブライトライツ・ホーリーランド』(電撃文庫)における、敵の放った呪弾をジブリールの肉体に構成して反撃する描写(166-168頁)を思わせる。《スレイマンの前に(……)呪力防壁が展開し、数百の呪弾をトラップした。》……《呪弾(……)が、ジブリールを核に組み合わされ、その新たな肉体の構成要素となった。》……《荒れ狂う呪弾の暴風、すべてを呑み込み噛み砕く呪力のミキサーと化したジブリールは(……)》。

──少女よ、私はあなたに言う。起きなさい。
 新約聖書「マルコ伝」5章41節。

『大十字九郎、ここにありき』って首括って死ぬか?
 映画『ショーシャンクの空に』('94米)。刑務所を仮釈放されたブルックスは、塀の外の社会に適応できず、「ブルックス、ここにありき」と刻んでアパートの一室で首吊り自殺する。

アスファルトが、
 秋山瑞人『猫の地球儀』(電撃文庫)のパロディか。

また新しい女の子を餌食にして凌辱悪夢絶望だぁー
 『凌辱』(アイル)『悪夢』『絶望』(スタジオメビウス)という実在のエロゲーにかけた。

アーカム・アドヴァタイザー Arkham Advertiser
 H.P.ラヴクラフト『ダンウィッチの怪』などに登場する架空の新聞名。

──さあ、喜んであなたのパンを食べ、愉快にあなたの酒を飲め。あなたの業を神は受け入れて下さる。
 旧約聖書「伝道の書」9章7節。

はにゃーん
 CLAMP『カードキャプターさくら』に登場する、幸福感を示す感動詞。

──第七日目に、神は御自分の業を完成され、第七日目に、神は御自分の業を止め、安息なされた。
 旧約聖書「創世記」2章2節。

いあ〜! しゅぶにぐら〜♪ Ia! Shub-Niggurath!
 「イア! シュブ=ニグラス!」。邪神シュブ=ニグラスに捧げられるはずのこのフレーズは、ラヴクラフトの作品では、しばしば唐突に謎めいたかたちで登場する(たとえば『魔女の家の夢』『闇に囁くもの』)。それをふまえたシーン。

黄金の蜂蜜酒 Golden Mead
 オーガスト・ダーレス『永劫の探求』に登場する酒。飲んだ者は時空を超えて旅することが可能になる。邪神の眷属に追われる人間の、最後の逃亡手段の一部。

──主は、私を広い場所に導き出し、私をお救いなされた。主が私を喜びとされたから。
 旧約聖書「詩篇」18章19節、「サムエル記下」22章20節。

ハムラビ法典
 古代オリエントの法典。「目には目を、歯には歯を」の制限的な復讐法で有名。

──何が原因で、あなた方の間に戦いや争いが起こるのでしょう。
あなた方の躰の中で、争う欲望が原因ではありませんか。
 新約聖書「ヤコブ書」4章1節。

ハスター Hastur
 A.ビアスの短篇『羊飼いのハイータ』において羊飼いのハイータが崇拝する神。のちにR.W.チェンバース『黄の印』(『クトゥルー3』青心社文庫)にも登場し、さらにその後でH.P.ラヴクラフトが『闇に囁くもの』(『ラヴクラフト全集5』創元推理文庫)においてわずかに言及、クトゥルー神話への導入の端緒を作った。ただ、実際に活躍するのはオーガスト・ダーレス『ハスターの帰還』(『クトゥルー1』青心社文庫)等においてであり、「風を司る」のもダーレス以降である。

恐るべきハスターの聲を聴き……
 以下、「〜耳を傾けよ」まで、「『ネクロノミコン』断章」(『魔道書ネクロノミコン』学研M文庫)より「ハスターの聲」の引用。

セラエノ断章Celaeno Fragments
 オーガスト・ダーレスが創作した書物。『永劫の探求』等に登場。「古代より伝わる書物ではない。相当新しい、ここ近年に書かれたであろう」とあるので、ここに登場するのはシュリュズベリィ博士による英訳版と思われる。

クラウディウス Claudius
 ローマ帝国皇帝クラウディウス(前10〜54、位41〜54)。

カリグラ Caligula
 ローマ帝国皇帝ガイウス(12〜41、位37〜41)の通称。カリグラは子供用の軍靴のことで、幼少時をドイツの陣中で過ごした際についた愛称。当初は理性的にふるまい名君と評判だったが、即位後半年で大病を患い、回復後は一変して狂気の暴君と化した(精神疾患を発症したとの説がある)。また頑健で筋骨たくましかったという。

水神クタアト Cthaat Aquadingen
 ブライアン・ラムレイ創作の書物。初登場はおそらく『縛り首の木』(『タイタス・クロウの事件簿』創元推理文庫)。

クラーケンKraken
 北欧で古くから目撃談のある、北極海に棲むという巨大な生物。その正体については、大蛸、大蟹などさまざまな説がある。なお、栗本薫『魔界水滸伝』はこれをクトゥルーと同一視する。

イア! イア! ハスター! ハスター クフアヤク ブルグトム…… Ia! Ia! Hastur! Hastur cf'ayak 'vulgtmm,...
 オーガスト・ダーレス『永劫の探求』(『クトゥルー2』青心社文庫)に登場する、ビヤーキーを招喚する呪文。

ビヤーキー Byakhee
 バイアキー、バイアクヘーとも。邪神ハスターの従者として、オーガスト・ダーレス『永劫の探求』などに登場する。星間宇宙を自在に飛行する、蝙蝠のような翼をもつ怪物。

──何故、貴方は私に災いを見させ、労苦を眺めておられるのか。
暴虐と不法は私の前にあり、闘争があり、諍いが起こっています。
 旧約聖書「ハバフク書」1章3節。

──苦しみなさい。嘆きなさい。泣きなさい。
あなた方の笑いを悲しみに、喜びを憂いに変えなさい。
 新約聖書「ヤコブ書」4章9節。

焼野(ソラーステド・ヒース)  blasted heath
 「焼(け)野」("blasted heath")はH.P.ラヴクラフト『宇宙からの色』で語られる、アーカム西部丘陵地帯。謎の隕石の落下により異様な変貌と荒廃を遂げる。また荒俣宏訳(訳題は『異次元の色彩』)は、「焼野」に「ブラーステッド・ヒース」のルビを振っている。
 「ソラーステド」という語は耳馴れないが、あるいは菊池秀行によるクトゥルー譚『妖神グルメ』(ソノラマ文庫ネクスト)における誤植からの発想か。213頁、「焼野」に「ソラーステド・ヒース」とルビが振られている。作家はおそらく「ブラーステド・ヒース」書いたのだろう。なお、ソノラマ文庫旧版では「フラーステド・ヒース」となっている。

前面下方に設置された弾倉
 現在の自動拳銃の弾倉は銃把に置かれるのが普通だが、ここでは銃爪の前部に置かれている。この独特な形状は、日本ではモーゼル拳銃として知られる、ドイツのマウザー社によるものがモデルになっている。

6ある弾倉の最下部より
 イタリアの銃器メーカー、マテバの回転式拳銃をモデルにしている。通常、回転式拳銃は弾倉の最上部より銃弾を発射するが、マテバは最下部より発射する例外的な型のリボルバーを生産している。

ネームレス・ワン Nameless One
 不明。単に「名無し」の意か。


第10話 BIG "C" 

中身と外側を裏返しにされたような死体
 諸星大二郎『異界録』か。なお、諸星大二郎はいくつかクトゥルー神話を用いた作品を描いている。

無銘祭祀書 Nameless Cults, Unausprechlichen Kulten
 通例「無名祭祀書」と訳される。おそらくはロバート・E・ハワードが創作した書物で、『屋根の上に』(『クトゥルー8』青心社文庫)に登場する。H.P.ラヴクラフト『戸口にあらわれたもの』等にも言及あり。

フェイスレス Faceless
 「顔無し」。H.P.ラヴクラフト『壁のなかの鼠』に「気の狂ったのっぺらぼうの神(the mad faceless god)」の用例あり。またロバート・ブロックに『無貌の神(Faceless God)』(『クトゥルー5』青心社文庫)というそのものずばりのタイトルがある。なお、facelessの語はラヴクラフトにおいてはむしろ『未知なるカダスを夢に求めて』のナイトゴーントの描写によく用いられる。
 余談だが、藤田和日郎『からくりサーカス』にフェイスレス司令という大変魅力的な登場人物がいることにも触れておきたい。

ムーンチャイルド計画
 アレイスター・クロウリーの小説『ムーンチャイルド』(創元推理文庫、絶版。The Libri of Aleister Crowleyで原文が読める)から。

9番目だったね? それとも『九』郎に
 「エンネア」はギリシャ語で「九」。
ネロ Nero
 ローマ帝国皇帝ネロ(37〜68、位54〜68)。カリグラに続き二人目の、「暴君」と呼ばれたローマ皇帝。タキトゥス『年代記』によれば、ローマ大火に際し、多数のキリスト者に放火の罪を着せ処刑したといい、これはしばしばローマによる最初のキリスト教迫害とされる。

──ここに知恵がある。思慮深き者は、獣の数字を数えるが良い。その数字は人間を指しているからである。その数字とは666である。
 黙示録13章18節。

BIG "C"
 ブライアン・ラムレイ『大いなる"C"』(ロバート・ブロック他『ラヴクラフトの遺産』創元推理文庫)原題。

イブン・カズイの粉薬 the powder of Ibn Ghazi
 「イブン・ガズイの粉薬」の誤りか。H.P.ラヴクラフト『ダンウィッチの怪』に登場した魔術的な粉末。『ダンウィッチの怪』においては、不可視の怪物について、「イブン・ガジの粉をかけたりすると、ぼくにもほんの少し見えるし」「あいつの姿をつかのまあらわさせる(make it show up)粉末」と語られる。『ダンウィッチの怪』の描写からは、単に見えるようにするためか、それともそれ以上の效果があるのかは不明だが、後代の創作「『ネクロノミコン』断章」(『魔道書ネクロノミコン』学研)は「物質化を果たす神秘の霊薬」としている。アルの「この粉薬はな、霊的物質の実体化を促す霊薬だ」との発言は後者に依拠するものと見られる。

Wendigo the Blackwood
 アルジャノン・ブラックウッド『ウェンディゴ』(『ブラックウッド傑作選』創元推理文庫)からか。北米の雪男ウェンディゴは、おそらくブラックウッドの作品を経由してクトゥルー神話に取り入れられた。このことは、ウェンディゴの伝説にはさまざまな種類のものがあるが、ダーレス『風に乗りて歩むもの』における描写はブラックウッドのそれを採用していることから窺える。

偉大なる獣。
竜の権威を振るう者。
 《わたしはまた、一匹の獣が海の中から上って来るのを見た。これには十本の角と七つの頭があった。それらの角には十の王冠があり、頭には神を冒涜するさまざまの名が記されていた。わたしが見たこの獣は、豹に似ており、足は熊の足のようで、口は獅子の口のようであった。竜はこの獣に、自分の力と王座と大きな権威とを与えた。》(黙示録13章。黙示録の「竜」はサタンを指す)
 「偉大なる獣」については、アレイスター・クロウリーは好んで「TO MEGA THERION」(ギリシャ語で「偉大なる獣」)と書名したという(ローズマリ・エレン・グイリー『魔女と魔術の事典』青土社、「666」の項)。またクロウリーの筆名「マスターテリオン」も同じ意味にとれる。

金枝篇 The Golden Bough
 フレイザー『金枝篇』は現代では人類学の古典的名著として名高いが、かつては魔術書と認識されていた。もっとも、H.P.ラヴクラフト『クトゥルフの呼び声』では既に「神話学や人類学」の本の一冊として言及されるので、ここで魔道書として登場するのはRPG『クトゥルフの呼び声』の設定の影響か。

──(ワムス)
──(マゴット)
──妖蛆(ウェルミス)
 ブライアン・ラムレイ『妖蛆の王』(『タイタス・クロウの事件簿』創元推理文庫)に、「(ワマス)妖虫(ウォルミウス)(ヴェルミ)妖蛆(ワーム)!」と繰り返し唱えるシーンがある。

エイボンの書 Book of Eibon, Liber Ivonis, Livre d'Eibon
 C.A.スミスの創作による書物で、『ウボ・サスラ』(『クトゥルー4』青心社文庫)に登場する。エイボンはスミスの古代大陸ハイパーボリアを舞台とした作品に登場する魔道士(『魔道士エイボン』、所収は『クトゥルー5』)で、従って原著はハイパーボリア語で書かれていることになる。
 英語版Book of EibonはH.P.ラヴクラフト『戸口にあらわれたもの』『魔女の家の夢』、ラテン語版Liber Ivonisが『闇をさまようもの』、フランス語版Livre d'EibonがW.ラムリー『アロンソ・タイパーの日記』(『クトゥルー5』、添削はラヴクラフト)に見えるが、ここでウェスパシアヌスが所持しているのがどれなのかは不明。
屍食教典儀 Cultes des Goules
 H.P.ラヴクラフト『闇をさまようもの』『時間からの影』、またオーガスト・ダーレスの作品におもに登場する。この本の著者とされるダレット伯爵はオーガスト・ダーレスの先祖という設定。『ラヴクラフト恐怖の宇宙史』(角川ホラー文庫)の註(186頁)によれば、この書物の創作はダーレスによる。

法の言葉は意志(テレマ)なり The word of the Law is Θελημα.
 "The word of the Law is Θελημα."(Liber AL vel Legis, I.39)
 アレイスター・クロウリー『法の書』にある言葉。Θελημα(Thelema)はギリシャ語で「意志(will)」。

覆魔殿(パンデモニウム) Pandemonium
 「伏魔殿」の誤りか。「パンデモニウム」はミルトン『失楽園』における造語で、ギリシャのパンテオン(万神殿、汎神殿)をもじったもの。「万魔殿」とも訳される。また「伏魔殿」は、『水滸伝』冒頭で108の魔星が封じられていた建物だが、パンデモニウムの訳語にも用いられる。

巨大な肉の塊が音速で飛行する戦闘機に
 菊池秀行『妖神グルメ』(ソノラマ文庫)において、復活前のクトゥルーの触手が超音速戦闘機三機を撃墜している前例がある。

海神への嘆願
 「『ネクロノミコン』断章」(『魔道書ネクロノミコン』学研)の「大いなるクトゥルーへの嘆願」か。ここではあえて「クトゥルー」の語を避けた。

クトゥルー Cthulhu
 H.P.ラヴクラフト『クトゥルフの呼び声』に登場する、神として崇拝される怪物。しばしば「大いなるクトゥルー」(Great Cthulhu)。クトゥルフ、クルウルウ、ク・リトル・リトル等さまざまに訳されるが、「クトゥルー」が最も有名。ちなみにこのシーン以前では、「クトゥルー」という最もメジャーな名辞は、「くするふ」「くぅ〜りとぉ〜りとぉおふ〜」「C」の語で注意深く避けられている。
 ラヴクラフトの作品群では決して大きな位置を占める神ではないが、それでも非常に人気があり、ラヴクラフトの死後ダーレスが成立させた「クトゥルー神話」の名の由来となっている。

「嗚呼、汝、死して横たわりながら夢見るものよ。汝の僕が呼びかけるのを聞きたまえ……」
 以下マスターテリオンの「されどクトゥルー甦り、その王国が地球を支配せん」まで全て、「『ネクロノミコン』断章」(『魔道書ネクロノミコン』学研)の「大いなるクトゥルーへの嘆願」から。
 なお、アンチクロスの呪文の詠唱順(アウグストゥス−ティベリウス−カリグラ−クラウディウス−ウェスパシアヌス−ティトゥス)は、歴代ローマ皇帝の即位順(むろんネロは省かれている)。

三千大千世界
 三千世界とも。仏教用語。一体の仏の教化の及ぶ範囲をあらわす単位。須弥山を中心とした四州(われわれがいるような世界。太陽系ぐらいの大きさに換算されるらしい)が一千集まったものを小千世界、小千世界が一千で中千世界、中千世界が一千で三千大千世界と呼ぶ。

ヘルメスの炎
 ギリシャ神話のプロメテウスは天から火を盗んで人間に与えたが、その火はヘルメスの炎の馬車から移されたものであった。またプロメテウスは、火によって獣から身を守る智慧をも同時に人間与えた。このことから、人間の科学技術が利用可能とした力(たとえば原子力)をこう呼ぶことがある。
その『角』に、犬に似た犬ではない何かの首が生えていた。
F.B.ロング『ティンダロスの猟犬』(『クトゥルー5』青心社文庫)によれば、ティンダロスの猟犬は、一定の角度さえあれば、どのような時間と空間にも出現することができる。

リリー・マルレーン Lili Marleen
 第二次大戦において、敵味方問わず戦地の兵士に愛された歌として有名。恋人と別れて戦地に赴いた兵士の心情を歌った。原詞はハンス・ライプだが、ここでマスターテリオンが歌っている日本語歌詞の典拠は不明。鋼屋ジン氏によるものかもしれない。以下に掲載する(リフレイン部分は略)。

君の歩みが 君の足どりが飾る 燃えるような夜
だけどボクは長く忘れられて 悲しい思いをするんだ
街灯の下に立つのは誰なんだい?

嗚呼、愛しのリリー・マルレーン
嗚呼、愛しのリリー・マルレーン

この静かな場所で この地球の上で
ボクは夢見る 君の愛しい唇を
霧が晴れて あの街灯の下に立てるのはいつ?


「なんて……美しい」
 『戦国魔神ゴーショーグン』のL.M.ブンドルが同種のシチュエーションで同様の科白を言っていたと記憶するが、未確認。

レガシー・オブ・ゴールド Lecacy of Gold
 不明。全身金ピカの機体とネーミングは、永野譲『ファイブスター物語』の「ナイト・オブ・ゴールド」を想起させる。

ハイパーボリア Hyperborea
 ヒューペルボレアとも。古代のギリシャ人に信じられた北方の楽園ヒュペルボレオイがもとになっている。おそらくC.A.スミスがこれを失われた古代大陸とし、そこを舞台とする作品を書いたのが、クトゥルー神話に登場する要因のひとつと思われる(ラヴクラフトはたとえば、スミスのハイパーボリアで崇拝される邪神「ツァトゥグア」を、自身の作品に取り入れている)。
 またラヴクラフト『狂気の山脈にて』では、ハイパーボリアは大寒波により滅びたとされ、絶対零度の「ハイパーボリア・ゼロドライブ」はそれを参照しているのかもしれない。

イスラムの琴 Qanoon-e-Islam
 H.P.ラヴクラフト『チャールズ・ウォードの奇怪な事件』における、『ネクロノミコン』の別称。

アルハザードはバビロンの廃墟とメンフィスの地下洞窟を訪れ、古代アラブ人が『虚空(ロバ・エル・カリイエ)』と呼び、現在のアラブ人が『深紅の砂漠(ダーナ)』と呼ぶ……
 以下、アルハザードの死の顛末まで、H.P.ラヴクラフト『ネクロノミコンの歴史』を下敷きにしている。

皇蛾
 不明。「オーガ」(西洋の御伽噺に登場する人食い鬼)か。

サイクラノーシュCykranosh
 C.A.スミス『魔道士エイボン』に見られる、古代ハイパーボリアでの土星の呼称。

ガルバ、オトー、ウィテリウス Galva, Otho, Vitelius
 各地の反乱により没落した暴君ネロの後、ほぼ一年(68年〜69年)のあいだに、相次いで立った三人の皇帝。なお、この混乱を収拾しフラヴィウス朝を樹てたのがウェスパシアヌスである(ネロの死によりユリウス−クラウディウス朝は断絶)。
 萩原一至『BASTARD!』で主人公が用いる三つの人面瘡「唱える者共」のアレンジか?
血涙を流しながら、三人の巨人が吠える。
 萩原一至『BASTARD!』の超原子崩壊励起(ジオダ=スプリード)で、敵を四方から囲み「苦痛と憎悪を吐き出」す四体の悪魔を想起させる。

第11話 THE CROW

THE CROW
 映画『クロウ』。

アウトサイダー及びその他の物語 The Outsider and Others
 H.P.ラヴクラフトの初短篇集。死後、オーガスト・ダーレスにより出版された。また、ダーレスのクトゥルー譚においては、旧支配者についての資料として言及される。
水棲動物 Hydrophinnae
 ブライアン・ラムレイの創作による書物。『ド・マリニーの掛時計』(『タイタス・クロウの事件簿』創元推理文庫)等に登場。
アザトースその他の恐怖
 Azathoth and Other Horrors
 H.P.ラヴクラフト『戸口にあらわれたもの』の登場人物、エドワード・ダービィ18歳の時の詩集。

ゴールデン・ゴブリン・プレス Golden Goblin Press
 H.P.ラヴクラフト&H.ヒールド『永劫より』で言及されるニューヨークの出版社。1909年に『無名祭祀書』を英訳(原著はドイツ語)したが、内容は入念に検閲削除済。デュッセルドルフの初版本は数冊しか現存しないが、こちらは比較的大量に出回っているという。

【イブン・カズイの粉薬の製法】
 「『ネクロノミコン』断章」(『魔道書ネクロノミコン』学研)より「イブン・ガズイの粉薬の製法」。なお、ゲーム本編では「イブン・カズイ」「イブン・ガズイ」の二種類の表記が併存している。

不凋花(アマランス) Amaranth
 ギリシャ神話で、冥界にあるという永遠にしぼまない花。またそれに因んで名付けられた花が実在する(ヒユ科の一年草)。「不凋花」は大瀧啓裕訳『未知なるカダスを夢に求めて』のセレファイスの描写にも見える。
ヴーアの印 the Voorish sign
 「ヴーアの合図」とも。H.P.ラヴクラフト『ダンウィッチの怪』においてわずかに言及される。《ヴーアの合図をしたり、イブン・ガジの粉をかけたりすると、ぼくにもほんの少し見えるし(……)》(大瀧啓裕訳『ダニッチの怪』)。
 ラヴクラフトよりずっと後の創作である「『ネクロノミコン』断章」(『魔道書ネクロノミコン』学研)はこれを「旧支配者の真の象徴」としている。
コスの記号 the sign of Koth
 「コスの印」とも。H.P.ラヴクラフト『未知なるカダスを夢に求めて』『チャールズ・デクスター・ウォードの事件』に登場。なお宇野利康訳『チャールズ・ウォードの奇怪な事件』(『ラヴクラフト全集2』創元推理文庫)では「コス」という固有名詞は訳出されていない(依拠するテクストの問題かもしれないが)。

黒い布に包まれた三日月型の刀
 《偃月刀は黒い絹の布にてくるみ、ふたたび使用するときまで保管すべし。されど霊力が失われるため、何人にもふれさせぬよう注意せねばならぬ。》(「『ネクロノミコン』断章」より「バルザイの偃月刀の製作」、所収は『魔道書ネクロノミコン』学研)

今夜、独りぼっちかーい? 今夜、僕がいなくて寂しくないかーい? 別れたことを後悔しているか──いっっっ♪
 エルヴィス・プレスリーのバラード「今夜はひとりかい(ARE YOU LONESOME TONIGHT)」のアレンジ。

我輩のしぶとさとしつこさとウザったさとマッタリさ加減を甘く見るなよ衆愚! そんなにも甘いのがお好みならサッカリン等を大量に摂取するが良いさ! 存分に貪り尽くせ、夜明けまで!
 サッカリンは人工甘味料で、不自然に甘い(現在日本では使用禁止)。「貪り尽くせ、夜明けまで」はニトロプラス『吸血殲鬼ヴェドゴニア』デモムービーの末尾に出る字幕。

朝飯前どころか昨日の夕飯前どころか昼飯前どころか朝飯前であり
何? 戻った? それともこれは一日食事を抜いてぶっ通しってこと? 我輩にも分からぬ
 ゲーム雑誌『ファミ通』の連載「ゲーム帝国」風の言い回し。

無二の親友に裏切られ、変態ヤクザあたりに輪姦されたのが妥当な線かと思われ。
 ニトロプラス『鬼哭街』を意識したセリフか。『鬼哭街』の主人公は、無二の親友に裏切られ、上海黒社会の組織幹部に「妹を」輪姦され、復讐の鬼と化す。

バンカーバスター
 地下壕(バンカー)破壊のみを目的とする特殊な爆弾(の通称)。湾岸戦争で米軍が初めて使用した。

第12話 THE HUNT

巨大で凶悪で中に白木の杭を仕込んでありそうなハンマー
 ニトロプラス『吸血殲鬼ヴェドゴニア』に登場する。

だが狩りたてる者よ、心せよ
 次項参照。

THE HUNT
 ヘンリィ・カットナー『狩りたてる者』(『クトゥルー11』青心社文庫)原題。

キャンベルにでも頼んで下さい
 映画『死霊のはらわた』シリーズの主演俳優、ブルース・キャンベルから。

バラガキ
 茨垣。あるいはバラ餓鬼。司馬遼太郎『燃えよ剣』によれば、悪童や乱暴者のことを武州ではそう呼んだというが、事実かどうかは不明。もっぱら同作における土方歳三の綽名として有名。

この程度では殺し切れないか
 「殺し切れない」という語の通常の用法は、「勢いを殺し切れない」「スピードを殺し切れず」等。ここでメタトロンが、文字通り殺しても死なないような相手に対してこう述べるのはやや特殊な言い方だが、これは平野耕大『ヘルシング』におけるアンデルセン神父の科白「なるほど、これでは殺し切れん」を参照したのかもしれない。

アイ! アイ! はすトゥゥゥゥるゥゥゥゥゥゥ!
 ハスター(Hastur)はハストゥールとも訳される。

サディスティック・デザイア Sadistic Desire
 X(X-JAPAN)の曲「Sadistic Desire」。初出はインディーズ時代のアルバム『VANISHING VISION』。

スクリーミング・バード Screaming Bird
 『科学忍者隊ガッチャマン』の科学忍者隊の奥義、「科学忍法火の鳥」か。

第13話 BLADE RUNNER

「イグナヰイ……イグナイヰ……トゥフルトゥクングア……よぅぐそぉとおお……!」 Ygnailh... ygnaiih... thflthkh'ngha.... Yog-Sothoth ...
H.P.ラヴクラフト『ダンウィッチの怪』からの引用(ややアレンジされているが)。以下、「イブトゥンク…ヘフイエ――ングルクドルウ……」、「エエ・ヤ・ヤァ(略)よおぉぉぉぉぉうぐそおとおとおぉぉぉ……!」も同じ。

BLADE RUNNER
 映画『ブレードランナー』から。

危難の席 Siege Perilous
 アーサー王伝説において、王と騎士たちのための円卓にあった空席。資格のない者が着くと災いがふりかかるという。聖杯探索の折、サー・ガラハッドがその席を満たした。またガラハッドは円卓の騎士のうち最も優れていた。

ルミナス luminus
 かがやき。
アポート Aport
 引き寄せ。超能力で、遠方の物体を居ながらにして手許に(障害物を越えて)移動させること。aportの辞書的な意味は副詞「引き寄せて」。超能力用語としては「物体移動」と訳され、アウグストゥスの用法はここから生じた誤解と思われる。

『ルルイエ異本』の少女は相変わらず、夢を見るような瞳で
 「ルルイエの館で夢見ながら待っている」と称されるクトゥルーは夢の神でもある。かの信徒は夢を通じて神の聲を聞き、信徒ならずとも敏感な者は夢にルルイエを見ることがある。

怨霊呪弾
 誰でも思いつきそうなコンセプトであるが、強いて挙げれば巻来功士『ゴッドサイダー』で、悪魔の側の人間(デビルサイダー)ドゥーインの用いる「瘴気砲弾」に似る。ネーミングはむしろ主人公の用いる返し技「怨霊散弾」だが。なお「呪弾」はおそらく古橋秀之による造語で、『ブラックロッド』(電撃文庫)などに見られる。

銀の鍵 窮極の門
 H.P.ラヴクラフト『銀の鍵を越えて』に登場する。

千と無貌
 「千」については、《「ヘイ、アア=シャンタ、ナイグ。旅だつがよい。地球の神々を未知なるカダスの住処におくりかえし、二度とふたたび千なる異形のわれに出会わぬことを宇宙に祈るがよい。》(H.P.ラヴクラフト『未知なるカダスを夢に求めて』、大瀧啓裕訳)
 「無貌」については前出「フェイスレス」の項を参照。
暗黒の男 Black Man
 《密かな、恐るべき力を人間に授けた使者や代理人の、今は忘れ去られた姿がある──たとえば魔女の宗派が言う〈黒い男〉、『ネクロノミコン』に言う、〈ニヤルラトホテップ〉がそれである》(H.P.ラヴクラフト『魔女の家でみた夢』、荒俣宏訳、角川ホラー文庫『ラヴクラフト恐怖の宇宙史』所収。同書の別の個所の註には〈黒い男〉は「サバトの夜宴では悪魔を示す」。これをニヤルラトホテップと同定しうるかどうかは微妙)
 他に『チャールズ・ウォードの奇怪な事件』に言及がある(《余はこのところ、黒き偉大なる者(Black Man)が、英本土の北辺、古代ローマ人の構築せる城壁の地下にて、シルヴィアス・コキディウスの口より何を学びとりしや、その詳細を知りたき思いに駆られている。》宇野利康訳)が、両者の関係は不明。
 また「暗黒の男」とは呼ばれないが、謎の黒い男、というモチーフ自体は、
 《かれは言った、自分は二十七世紀の闇から立ち上がった者だ、自分はこの惑星にはない場所からもたらされた伝言(メッセージ)を耳にした、と。色はあさ黒く、痩せぎすで、どことなく不気味で、いつもガラスや金属の不思議な器機を買いこんでは、それをもっとずっと不思議な器機につくり替えてしまう男、》(『ニヤルラトホテップ』荒俣宏訳)。

這い寄る
 後述。
闇の跳梁
 H.P.ラヴクラフト『闇をさまようもの』(The Haunter of the Dark)の邦題に『闇の跳梁者』(『定本ラヴクラフト全集6』国書刊行会)がある。
咆吼する
 《それは触腕、鉤爪、手が自在に伸縮する無定形の肉の塊と、咆吼する顔のない円錐形の頭部によって特徴づけられる。》(東雅夫編『クトゥルー神話事典』学研、「ナイアルラトホテップ」の項)。なお、同事典のこの部分の記述は、オーガスト・ダーレス『闇に棲みつくもの』(『クトゥルー4』青心社文庫)に登場する、「闇に吠ゆるもの」の描写からとられている。

七の支柱に吊るされた窓
 異界への窓としての「輝くトラペゾヘドロン」
其はそれは単に一つの時猫の瞳念が持銃弾つ最も包解体括的で無制約な領玩具――
 《それは単に一つの時空連続ではなく、実存という概念が持つ最も包括的で無制約な領域(……)》(H.P.ラヴクラフト『銀の鍵の門を越えて』荒俣宏訳)。また、「猫の瞳」「銃弾」「解体」「玩具」は小林泰三『玩具修理者』(「ようぐそうとほうとふ」等クトゥルー神話を連想させる語が登場するホラー小説)に特徴的なイメージ。
【銀■■■■について】
「銀の鍵の門について」か。
これはヘン■■・■■■■■■■が斃■■■■■スト■■■■と同様
 「これはヘンリー・アーミティッジが斃したヨグ=ソトースの子と同様」か。後段は合わないが。
【■■寄■■沌について】
 「這い寄る混沌について」か。《ナイアルラトホテップ……這い寄る混沌……わたしは最後の者であり……耳かたむける虚空に語りかけよう……》(H.P.ラヴクラフト『ナイアルラトホテップ』大瀧啓裕訳)。また『未知なるカダスを夢に求めて』では、ほぼ常にナイアルラトホテップの別名。なおcrawling chaosを「這い寄る混沌」とするのは大瀧啓裕訳。

外なる神々 Outer Gods
 TRPG『クトゥルフの呼び声』独自の分類で、もっとも上位に位置する神々をいう。この語ないし概念はラヴクラフトには存在せず、、またおそらく正統的なクトゥルー神話作品のものでもない。
 ラヴクラフトのいう蕃神(Other God)たち、及びダーレスの設定した旧神(Elder Godたち)がこれに含まれる。また同RPGは、外なる神々と旧支配者を区別し、前者を後者よりも超越的な存在とする。
 また「蕃神」はドリームランド(夢の国、幻夢境)を舞台とした『未知なるカダスを夢に求めて』におもに登場する。

旧き印(エルダー・サイン)
 アルルートではここで初めて「エルダー・サイン」のルビが登場する。
「第4の結印は〜」の項を参照。

──永遠の憩いにやすらぐを見て、死せる者と呼ぶなかれ(That is not dead which can eternal lie,)
     果て知らぬ時ののちには、死もまた死ぬる定めなれば(And with strange aeons even death may die.)──
 宇野利康訳『クトゥルフの呼び声』(『ラヴクラフト全集2』創元推理文庫)による。

スター・ヴァンパイア Star Vampire
 「星の精」とも。くロバート・ブロック『星から訪れたもの』(『クトゥルー7』青心社文庫)に登場する妖魔。主人公は『妖蛆の秘密』の一節を声に出して読んでしまい、これを呼び出すことになる。

友情パワー
 ゆでたまご『キン肉マン』に登場する謎のパワー。一般には単に「友情」という意味で用いられることが多い。

何か異常な角度、三次元に生きる存在には、認識出来ない在り得ざる角度へと
 尋常ならざる「角度」あるいは「方向」というモチーフは、H.P.ラヴクラフトの作品にしばしば現れる。《三次元世界の観念が、どんなに子供じみて狭隘なものであるか、ということについては、前にも聞いていた。上下、左右、前後といった方向以外にも、方向は無限にあるのだという》(『銀の鍵の門を越えて』荒俣宏訳)。ほか『魔女の家の夢』、『闇に囁くもの』におけるアザトースへの言及、あるいはF.B.ロング『ティンダロスの猟犬』等が参考になるかもしれない。

輝くトラペゾヘドロン(Shining Trapezohedron) Shining Trapezohedron
 H.P.ラヴクラフト『闇をさまようもの』に登場する多面体の石。暗闇でこれを凝視し続けることにより「闇をさまようもの」(同作の主人公は、これをある邪神の化身のひとつと推理した)を呼び出すことができる。ちなみに「トラペゾヘドロン」は「偏四角多面体」の意。
 《さしわたし四インチほどもある球形の物体は、ふぞろいの平面部を数多く備える、赤い線の入ったほとんど黒に近い多面体であることが判明した。ある種の驚くべき結晶体か、鉱物を刻んで磨きあげられた人工的なものらしい。その多面体は箱の底面に触れることなく、中心をとり巻く金属製の帯と、箱の内壁の上部から水平にのびる奇妙な形をした七つの支柱とによって、つりさげられていた。》(大瀧啓裕訳『闇をさまようもの』)。
 『デモンベイン』における、武器(捻じ曲がった神柱)としての形態及び用法については(「異界へと通じる窓」的なニュアンスを除き)、同作のオリジナルと思われる。

第14話 THE RETURN OF THE SORCERER

THE RETURN OF THE SORCERER
 C.A.スミス『妖術師の帰還』(『クトゥルー3』青心社文庫)原題。
シャンタク Shantak-bird, Shantaks
 H.P.ラヴクラフト『未知なるカダスを夢に求めて』に登場する、鱗ある巨鳥。「凍てつく荒野より翔び立つ翼を我に」とある通り、凍てつく荒野レンに(も)棲む。「『ネクロノミコン』断章」(『魔道書ネクロノミコン』学研)には、「凍てつく荒野のレンについて」の項にシャンタク鳥も記されており、バルザイの偃月刀と同様に、デモンベインの武装となる根拠となっている(もっとも、アトラック=ナチャは「断章」にはない記述だが)のかもしれない。
 またここで、「外なる神々に関する記述」が、ドリームランドのシャンタク鳥に関する記述をも意味していることが示される。クトゥルフRPGとラヴクラフトの関係を知らないと(両方とも知らなければ問題はないが)、若干戸惑うところかもしれない。「外なる神々」の項を参照。

殺し愛え ころしあえ
 この書き手に独特の当て字。「殺愛(ころしあい)」は「人外ロリ」ともども鋼屋ジン氏のキーワード。『中央東口のシャイニングエクソシスト』2002年2月号を参照。なお、小池一夫・池上遼一に『殺愛(ころしあい)』という作品が存在する(http://www.koikekazuo.jp/works_sakka.html)。

回って回って回り尽くして美味しいバターになりました。原材料:トラ
 絵本『ちびくろサンボ』。トラが木の回りを走り回るうちになぜか溶けてバターになる。主人公はそれをホットケーキにして美味しく食べる。ちなみに「急がば回れ」の「回れ」はもちろん「迂回せよ」の意。

アラート号事件
 H.P.ラヴクラフト『クトゥルフの呼び声』で語られる。

どぅー・おあ・だいっ!
 ドロップキック・マーフィーズのアルバム『ドゥー・オア・ダイ』か。

戦艦アリゾナ
 われわれの世界では、1941年に真珠湾攻撃で沈んだ戦艦の名である。なお、『デモンベイン』の作中年代は1930年代後半と推定される。

ゾンバイオ
 映画『ZOMBIO 死霊のしたたり』(85米)から。なお、原作は「一応」H.P.ラヴクラフト『死体蘇生者ハーバート・ウェスト』。ちなみに映画の原題は「Reanimator」であり、「ZONBIO(ゾンバイオ)」の語は邦題によるオリジナル。

銀河よ吾輩の歌を聴け、であーる
 TVアニメ『マクロス7』最終話における熱気バサラの科白「山よ! 銀河よ! 俺の歌を聞け!」から。『マクロス7』は宇宙における移民船団と異星人との戦争を描いた作品だが、バサラは戦闘のさなかで歌うのを常とした。
お前にラブハアァァァット
 同じく熱気バサラが劇中で歌う曲『突撃ラブハート』から。同曲の歌詞にあるのは「お前の胸にもラブハート」だが、バサラに感化された金龍大佐は、特攻して果てる際「お前にラブハート!」という絶叫を残す。

ノーデンス Nodens
 H.P.ラヴクラフト『霧のなかの不思議の館』(『定本ラヴクラフト全集3』国書刊行会)『未知なるカダスを夢に求めて』に登場する海神。おそらくはケルト神話の「銀の腕のヌアダ」の異称からとられている。

世界の命運はこんな魚介類如きに好きにされて良いものでは
 OVA『ジャイアントロボ』最終話における、衝撃のアルベルトの科白から。「そう、世界の命運はこんな若造などに好きにさせるものではない」。

弾幕が薄いであるぞ!?
 『機動戦士ガンダム』シリーズでしばしば艦長を務めるブライト・ノアの科白から。初出は『機動戦士ガンダム』32話「強行突破作戦」の、「弾幕が薄いぞ! 相手は動いてくれるんだ。なまじ狙わずに撃てと言え」。また映画『機動戦士ガンダムII 哀・戦士篇』で「(弾幕薄いぞ) 何やってんの!」。有名な「弾幕薄いぞ(よ)! 何やってんの!」は『機動戦士Zガンダム』以降の登場と思われるが、出典不明。

ミラーコーティング
 巨大ロボットの一時的な防禦システムとしてのミラーコーティングは、『勇者王ガオガイガー』でボルフォッグ(及びビッグボルフォッグ)が用いている。

圧倒的な水の存在感
 オーガスト・ダーレスの設定では、クトゥルーは四大元素のうち「水」の主神。

――私は気を奪われて、天使に連れられて荒野へと赴き、緋色の獣に乗った女を見た。
――その体は冒涜の名で覆われ、七つの頭と十の角とがあった。
――紫色と緋色の衣をつけ、金、宝石、真珠で飾ったその女は、憎むべき者と淫行の穢れとに満ちた金の杯を手に持ち、その額には名があった。それは奥義である。
「大バビロン――地上の淫婦と憎むべき者との母」

 黙示録17章3〜5節。

ヘブライ語には総ての子音に数字の意味があるの。獣の数字666が表すのは皇帝ネロ。
 《ここに知恵が必要である。賢い人は、獣の数字にどのような意味があるかを考えるがよい。数字は人間を指している。そして、数字は六百六十六である。》(黙示録第13章18節、新共同訳)
 《実際、聖書研究者の間では、「ヨハネの黙示録」は遠い未来を描写したものではなく、一世紀後半のローマ帝国の情勢を反映したものであるとする解釈が主流なのである。第一七章では、額に「大バビロン」と書かれた女が、七つの頭の獣に乗って現れる。この獣の正体について、天使はヨハネに「七つの頭とは、この女がすわっている七つの山で、七人の王たちのことです」と解説する。ローマは七つの丘の上に建設された街であり、「大バビロン」がローマ帝国を意味していることは間違いない。「王たち」というのはローマ皇帝のことで、「666」とはキリスト教徒を迫害した暴君ネロを指すのではないかと言われている。「皇帝ネロ」はヘブライ語ではQSRNRWNである。ヘブライ文字にはそれぞれ数字が当てはめられており、Q=100、S=60、R=200、N=50、W=6なので、QSWNRWNを合計すると666になる》(と学会『トンデモ超常現象99の真相』宝島社文庫)

大いなる“(cthulhu)”を蝕む大いなる“(cancer)
 ブライアン・ラムレイ『大いなる"C"』(『ラヴクラフトの遺産』創元推理文庫)は、大いなる「C」(cancer=癌)をめぐるホラーだが、いまひとつの「C」を暗示する描写がある。

『あらゆるものは観測者なしでは存在できない』
 コペンハーゲン解釈か。なお、虚数展開カタパルトと同様、この世界ではコペンハーゲン解釈が正しいのかもしれない。ちなみにコペンハーゲン解釈は1927年(そしてシュレディンガーの猫は1935年)、エヴェレットの多世界解釈は1957年であり、『デモンベイン』の舞台はおそらく1930年代のアメリカをモデルとしている。

胎児よ
胎児よ
なぜ躍る
母親の心がわかって
おそろしいのか

 夢野久作『ドグラ・マグラ』よりの引用。なお、夢野久作については第二話にも「背教者デュッコ・シュレーカーの書いた悪魔の教典」(夢野久作『悪魔祈祷書』に登場する)が触れられている。

最終話 STRANGE EONS

聖書の獣(ドミティアヌス)はネロの生まれ変わり
 ヨハネ黙示録第17章、《あなたが見た獣は以前はいたが、今はいない。やがて底なしの淵から上って来るが、ついには滅びてしまう。地上に住む者で、天地創造の時から命の書にその名が記されていない者たちは、以前いて今はいないこの獣が、やがて来るのを見て驚くであろう。ここに、知恵のある考えが必要である。七つの頭とは、この女が座っている七つの丘のことである。そして、ここに七人の王がいる。五人は既に倒れたが、一人は今王の位についている。他の一人は、まだ現れていないが、この王が現れても、位にとどまるのはごく短い期間だけである。以前いて、今はいない獣は、第八の者で、またそれは先の七人の中の一人なのだが、やがて滅びる。 》
 「五人は既に倒れたが」の「五人」は、アウグストゥスからネロまでの皇帝を指す。「今王についている」のはウェスパシアヌス帝。また、続くティトゥス帝の在位期間は短かった。このことから、ヨハネ黙示録が書かれたのはティトゥス帝の次のドミティアヌス帝の時代であり、またウェスパシアヌス帝の時代に書かれた予言書を装った、との説が有力。
 「今はいない獣」はやがて即位するドミティアヌス帝(第八の者=ローマ八人目の皇帝)。皇帝崇拝を強要しキリスト教徒を迫害したという。また「以前い」た「先の七人の中の一人」はネロを指す。黙示録の作者は、キリスト教の迫害で知られる二人の皇帝を同一視してこのように書いた、という説が有力であるようだ。
 《不思議なことに長い間かれの墓所には花が絶えず、多くの市民が、ネロの死を信じず、やがて帰ってくると思っていた。》(I.モンタネッリ『ローマの歴史』中公文庫)

外なる虚空の闇に棲まいしものよ……
 マスターテリオンのヨグ=ソトース招喚の手順は、「『ネクロノミコン』断章」(『魔道書ネクロノミコン』学研)の「ヨグ=ソトースの招喚」による(ただし若干の異同があり、とりわけ呪文の一部を『ダンウィッチの怪』のそれと差し替えている点において異なる)。

「Ω」の紋様
 ドラゴンの頭の印。「『ネクロノミコン』断章」がヨグ=ソトースの招喚にこれを用いるのは、ラヴクラフト『チャールズ・ウォードの奇怪な事件』をもとにしていると思われる。

右手の親指と中指を立てて、前方に突き出す
 キシュの印。《第二の結印はキシュの印であり、すべての障壁を破って、窮極の次元の関門を開ける。》(「『ネクロノミコン』断章)
今度は人差し指と小指を立てる。
 ヴーアの印。《最初の結印はヴーアの印であり、実際には旧支配者の真の象徴である。関門の彼方で待ち受けるものどもに祈願する際には、この印を結ぶべし。》(「『ネクロノミコン』断章)
 「ヴーアの印」はラヴクラフト『ダンウィッチの怪』に名前だけ登場する。

巨大な炎の星を描いたかと思うと、
 直後の記述からこれは五芒星形だとわかる。これも『チャールズ・ウォードの奇怪な事件』から。後述「第九の詩」の項を参照。

環状列石
 H.P.ラヴクラフト『ダンウィッチの怪』で、ダンウィッチ村の丘の上の環状列石がヨグ=ソトースの招喚に関連するらしい旨の記述がある。

ンガイ・ングアグアア・ブグ=ショゴグ・イハア、ヨグ=ソトース、ヨグ=ソトース――
 以下、「エエ・ヤ・ヤ・ヤ・ヤハアアア――エヤヤヤヤアアア……ングアアアアア……ングアアアアア……!」まで、及び「フユウ……フユウ……」は、「『ネクロノミコン』断章」ではなく『ダンウィッチの怪』をもとにしている(「『ネクロノミコン』断章」では別の呪文が記されている)。

「逆さΩ」の紋様
 ドラゴンの尾の印。「「Ω」の紋様」の項に同じ。

第九の詩
 《昨夜も、ヨグ・ソトトを出現さす呪文に思いつき、これを唱えることにより、イブン・シャカバックがその著に書き伝えし顔を初めて見た。そして、その顔のいわく、鍵は『断罪の書』の第三讃歌にあり。第五天宮にある太陽と、三分の一対座の土星によって、火の五星形を描き、第九唱句を三回誦せよ。聖十字架祭と万聖節の夕べごとに、この唱句を繰り返し誦するときは、他界に転生することを得んと。》(『チャールズ・ウォードの奇怪な事件』、宇野利康訳)
 なお、リン・カーターはこの「第九の詩」を、『ダンウィッチの怪』で言及される、『ネクロノミコン』無削除版751頁の呪文と同一視している。

ヨグ=ソトース Yog-Sothoth
 H.P.ラヴクラフト『ダンウィッチの怪』『銀の鍵の門を越えて』『チャールズ・ウォードの奇怪な事件』参照。
 《人間こそ最古あるいは最後の地球の支配者と思うべからず、また生命と物質からなる尋常の生物のみ、此の世に生くるとも思うべからず。〈旧支配者〉かつて存在し、いま存在し、将来も存在すればなり。我等の知る空間にあらぬ、時空のあわいにて、〈旧支配者〉のどやかに、原初のものとして次元に捕わるることなく振舞い、我等見ること能わず。ヨグ=ソトホースは門を知れり。ヨグ=ソトホース門なれば。ヨグ=ソトホース門の(かぎ)にして守護者なり。過去、現在、未来はなべてヨグ=ソトホースの内に一なり。〈旧支配者〉のかつて突破せしところ、ふたたび突破せんとするところ、ヨグ=ソトホースこれを知る。》(『ダニッチの怪』、大瀧啓裕訳)
 《それこそ果のない存在と自己の〈一にして全〉、〈全にして一〉の状態にほかならなかった。単に一つの時空連続体に属するものではなく、存在の全的な無限の領域──制限をもたず空想も数学もともに凌駕する最果の絶対領域──その窮極的な生気汪溢する本質に結びつくものだった。おそらく地球のある種の秘密教団がヨグ=ソトースと囁いていたものがそれだろう。》(『銀の鍵の門を越えて』、大瀧啓裕訳)

虹色の球体
ダーレス『暗黒の儀式』において言及される姿、「虹色の球体の集積物」による。

その球体は黄金の王冠を頂く駱駝。
 《ヨグ=ソトースの球体はそれぞれ名前が異なり、数多くの姿であらわれる。
 第一のものはゴモリであり、黄金の王冠をいただく駱駝のような姿であらわれる。ゴモリは地獄の二十六の軍団を指揮し、魔力ある宝石と護符の知識をもつ。
 第二のものはザガンであり、(……)》(「『ネクロノミコン』断章」)
 出典こそ『魔道書ネクロノミコン』だが、このシーンのテクストではむしろ、ナンバリングと名前を排し短文を書き連ねることによって、古橋秀之『ブライトライツ・ホーリーランド』の「神」の描写のような演出──つまり、さまざまな姿の異なった球体が存在するのではなく、同一の存在であるにもかかわらず同時に異なった姿に見える──となっている。

「それは単に一つの時空連続ではなく……
 H.P.ラヴクラフト『銀の鍵の門を超えて』(荒俣宏訳)からの引用。

ダンウィッチの呪われた兄弟
 H.P.ラヴクラフト『ダンウィッチの怪』のウェイトリィ兄弟をさす。

アカシック・レコード Acassic Record
 「アカシャ年代記」「アカシア記録」とも。人智学の創設者ルドルフ・シュタイナーが『アカシャ年代記より』(国書刊行会)で述べている概念。宇宙創生から未来すべての時間にわたり、あらゆることが記録されている何かが存在し、預言者や偉大なオカルティストはこれにアクセスすることにより、通常では得られないはずの知識を得たという。先行するマダム・ブラヴァツキーもこのアカシック・レコードを読み取ることができたという。なお、「アカシャ」とはサンスクリットで「原物質」で、オカルトでいうアイテール(エーテル)と同一視される。

霊酒(アムリタ) amrita
 インド神話に登場する、不死をもたらす飲み物。「甘露」とも訳される。

「大十字九郎の事件簿Final」
 ブライアン・ラムレイ『タイタス・クロウの事件簿』(創元推理文庫)。
STRANGE EONS
 ロバート・ブロック『アーカム計画』(創元推理文庫)原題。

ウムル・アト=タウィル Umr at-Tawil
 H.P.ラヴクラフト『銀の鍵の門を越えて』に登場する。
 《(……)狂えるアラブ人はこう記している。(……)敢えて〈(とばり)〉の彼方を窺わんとて、〈彼のもの〉を導くものとなす輩ありけるも、(……)かかる幽冥のものどもを悉く凌駕するは、〈道〉を固むる〈彼のもの〉なり。軽率なる者をなべての世界の彼方、名状しがたき貪り喰らうものどもの〈奈落〉に導きこむ〈彼のもの〉なりける。すなわt〈彼のものこそウムル・アト=タウィルにして、写字者により延命せられしものとあらわさるる〈古ぶるしきもの〉なれば。》(『銀の鍵の門を越えて』、大瀧啓裕訳)

──力を与えよ。力を与えよ。力を与えよ。
 「『ネクロノミコン』断章」からの引用。バルザイの偃月刀の製作において唱える文句。

大図書館! プレアデス星団のセラエノか
 ダーレス『永劫の探求』参照。旧支配者が旧神から盗んだ知識が納められており、『セラエノ断章』のオリジナル(石板に刻まれている)などが存在する。ゲーム本編に登場する『セラエノ断章』はおそらくラバン・シュリュズベリィ博士による英訳。
 セラエノはハスターの領地であり、「蝙蝠に似た翼を生やしたヒト型の怪物」はその従者たるビヤーキー(バイアクヘー)。

オートマチック・リボルバー
 回転式拳銃「イタクァ」のモデルとなったマテバで知られるユニークな機構のリボルバー。射撃の反動で拳銃の上部全体が(銃身やシリンダーごと)後方にスライドし、撃鉄を起こしなおすと同時にシリンダーが回転、次弾発射の準備が整う。

ドール Dholes
 H.P.ラヴクラフト『銀の鍵の門を越えて』に登場する。

ズガウバ Zkauba
 ヤディス星の魔道士ズカウバ(ズガウバに非ず)か。ドールを封印した。ランドルフ・カーターはヤディス星へと(意識体で)旅する際、彼の体に宿った。
ランドルフ Randolph
 ランドルフ・カーターを指す。『銀の鍵の門を越えて』『未知なるカダスを夢に求めて』等の主人公。
意識が混在しておるのか?
 『銀の鍵の門を越えて』によれば、ズカウバもカーターも、同一の〈原型〉の異なった面にすぎない。「意識の一平面がたまたま原型を切断する、その角度によってのみ差異が生じる、幻の投影物」だと語られる。そしてかれらの〈原型〉はヨグ=ソトースである。深読みすれば、書き手はここで、大十字九郎もまたヨグ=ソトースの持つ無数の影のひとつであると暗示している、と解釈できなくもない。
ヤディス星 Yaddith
 『銀の鍵の門を越えて』に登場する、五つの太陽を持つ惑星。

王冠、叡智、理解、慈悲、苛烈、美、勝利、栄光、基盤、王国……巡れ巡れ、生命の樹(セフィロト)を巡れ
 「生命の樹」はユダヤ神秘思想カバラにおける象徴図形で、この宇宙全体を体現する。「王冠」「叡智」等の名を持つ十の(セフィラー)(「セフィロト」はヘブライ語「セフィラー」の複数形)と、それを繋ぐ二十二の(パス)からなる樹状図。宇宙を表す、という点では曼荼羅に似るが、最大の差の一つは、「生命の樹」では、各セフィラーを「巡る」((パス)を通じて)ことを観想し魂の浄化と向上を図る、という点であろう。

天狼星(シリウス)の弓
 シリウスはおおいぬ座の一等星。古代バビロニアでは、この星座は犬の形とはされず、四分割される前のアルゴ座の一部(ほぼ今日の船尾座にあたる)を「弓の星」と称しシリウスは弓につがえた矢の先端にあたっていたという。

'EH-Y-YA-YA-YAHAAH-E'YAYAYAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaa!
 「エエ・ヤ・ヤ・ヤ・ヤハアアア――エヤヤヤヤアアア」の原綴。

輝く逆三角形『死に雷の洗礼を(ABRAHADABRA)
 アレイスター・クロウリーによれば、ABRACADABRA(語源は一説にヘブライ語「汝の雷を死に浴びせよ」)は正しくはABRAHADABRAであるという。「逆三角形」については、ABRACADABRAには下のように記した護符が知られている。
ABRACADABRA
BRACADABRA
RACADABRA
ACADABRA
CADABRA
ADABRA
DABRA
ABRA
BRA
RA
A
「――君は何処に落ちたい?
 ……なんてなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 「ジョー、君はどこに落ちたい?」は、石ノ森章太郎のマンガ『サイボーグ009』第一期連載最終回での002のセリフ。009と002の二人のサイボーグ戦士は、抱き合いながら宇宙空間から大気圏を落下し、流星となって燃え尽きる。その際、002が009に最後にこう言う。
 第1話冒頭の『フランダースの犬』と同様、「感動的な」シーンの定番であり、これらを洒落のめして見せるところに、作家のスタンスを特徴的に見て取ることができるかもしれない。
 余談だが、『009』はその続きのシーン(「あっ、流れ星」「何をお願いしたの」「へへっ。おもちゃが欲しいって」「まあ」「じゃお姉ちゃんは?」「私? 私は、戦争がなくなりますように、世界中の人が平和に暮らせますようにって」という姉弟の会話)も有名。


黒いファラオ Black Pharaoh
 ナイアルラトホテップはしばしば、「浅黒い肌をした、古代の若いファラオのごとき美丈夫」として登場する(H.P.ラヴクラフト『ナイアルラトホテップ』『未知なるカダスを夢に求めて』)。そのことから生じた通称か(ラヴクラフトはBlack Pharaohの語を用いていない)。実際にエジプトで王を務めたわけではないのだろう。
 なお、ダーレス以降のクトゥルー神話でBlack Pharaohといえば通常は呪われたファラオ、ネフレン=カ(ナイアルラトホテップ信仰を行い歴史から抹殺されたとされる)を指すはずなのだが、なぜかここではナイアルラトホテップのことになっている。


ナイ神父 Father Ny
 ロバート・ブロック『アーカム計画』(創元推理文庫)に登場する。「捻りのない名前だ」「どうもセンスが悪くってね」

ナイアルラトホテップ Nyarlathotep
 クトゥルー神話におけるトリックスター的な存在。クトゥルー神話(ちなみにこれはオーガスト・ダーレスの成立させた神話体系を言う。ラヴクラフトの作品は「クトゥルー神話」ではなく「原神話」と呼ばれることが多い)においては、旧支配者中唯一、旧神の封印を免れた存在として暗躍する。また、さまざまな姿をとることが可能。このため多くの作品に登場する。そしてその際は、無貌、三つに分かれた燃え上がる眼(あるいは額に第三の眼)、わかりやすい偽名、浅黒い肌、混沌、等の形容で示されるのが一種の「お約束」となっている。

正しい、本来の宇宙さ
 《星辰が正しい位置にあったとき、神々は宇宙空間を星から星へと飛び回ることができたのだが、それがいったん星座の位置が狂ったとなると、もはや生きてはいられなくなった。》(『クトゥルフの呼び声』宇野利康訳)

旧神の紋章(エルダー・サイン)
 ここで初めて「旧神」の語が登場する。

クラウンの壺
 おそらく「クラインの壺」の誤り。

……自らも星となろう。
 《Every man and every woman is a star. 》(Liber AL vel Legis, I,3)

引き抜いたその手に握られているエンジン
 石川賢『ゲッターロボ』おける旧ゲッターの最期(ゲッターロボ自らの手で、ゲッターエネルギータンクをその胴部より引きずり出す)の模倣。

銀鍵守護神機関
 「銀鍵」はH.P.ラヴクラフト『銀の鍵』『銀の鍵の門を越えて』に登場の「銀の鍵」。ランドルフ・カーターのカーター家に代々伝わる古風な鍵で、ランドルフ・カーターはこれにより時空を越えた旅を開始した。また「銀鍵守護神」は、「門の鍵にして守護者」たるヨグ=ソトースを含意すると思われる。ヨグ=ソトースはあらゆる時間と空間に接して存在する神性であり、「平行宇宙より無尽蔵のエネルギーを組み上げる」(「汲み上げる」の誤りか)機構にその名を冠するに相応しい。また、「獅子の心臓(コル・レオニス)」という別称もヨグ=ソトースを意識したものと思われる。

 なお、OVA『冥王計画ゼオライマー』のエネルギー供給の中枢「次元連結システム」が、「異なる次元に接続することにより無限のエネルギーを得る」機構となっている(ちみもりおによる原作に「次元ジョイント」があるが、どのようなものかは述べられない)。
 また、HELLOWEENの曲「守護神伝」の原題がKEEPER OF THE SEVEN KEYSであり、萩原一至『BASTARD!』の呪文「七鍵守護神(ハー・ロー・イーン)」のもととなっているのだが、これと「銀鍵守護神」という名称との類似性が指摘されよう。
獅子の心臓(コル・レオニス)
 およそ信頼に足るものとはいいがたいロバート・ターナーの「ネクロノミコン注解」(『魔道書ネクロノミコン』学研)によれば、ヨグ=ソトースは次のようなものである。
《全にして一なるもの。アザトースの副摂政。混沌の媒介。原初の言葉の外的あらわれ。「外世界にいるものども」が 通過しなければならない虚空の門。漆黒の闇に永遠に幽閉される彼の者の外的な知性。獅子宮がよく見える空における火の積極的なあらわれだが、さらに具体的には、古代アラブ人がアル・カルブ・アル・アサドと呼び、ローマ人がコル・レオニス──ライオンの心臓──と呼んでいた星、すなわち天の獣の胸の中に位置する星に存在する。 地上における基本方位はほぼ南である。》
 なお、「コル・レオニス」はしし座α星(レグルス)。また、ヨグ・ソトース招喚の時節は、太陽が第五宮(獅子宮)に入り、土星がそれに三分の一対座(120度)の角度に位置するとき(H.P.ラヴクラフト『チャールズ・ウォードの怪奇な事件』)。


スーパーウェスト無敵ロボGR1〜全てはビック・アフロの為に〜
 OVA『ジャイアントロボ THE ANIMATION 地球が静止する日』の Episode6「罪と罰 〜全てはビッグ・ファイアのために〜」から。「GR1」はジャイアントロボ一号。

『ネクロノミコン新釈』
 ブライアン・ラムレイの創作による書物。『タイタス・クロウの事件簿』(創元推理文庫)など。

「ラテン語版が大学に保管されているのは知っていたけどさ……」
 H.P.ラヴクラフト『ダンウィッチの怪』にラテン語版ネクロノミコンが閲覧されるシーンがある。


(以下はBAD ENDルート)
首を刎ねよ
 ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』のハートの女王の口癖。

棺桶のような目覚まし時計
 ド・マリニーの掛時計。H.P.ラヴクラフト『銀の鍵の門を越えて』で神秘家ド・マリニーの部屋に置かれている(もちろん目覚まし時計ではない)。「文字盤に不可解な象形文字が記され、四本の針がこの惑星にて知られるいかなる時間率にも一致せぬ動きを見せる、棺の形状をした奇妙な時計」(大瀧啓裕訳)。

縛り首の立ち木
 ブライアン・ラムレイ『縛り首の木』(『タイタス・クロウの事件簿』創元推理文庫)。

渦巻きの頭を持った昆虫の香具師
 H.P.ラヴクラフト『闇に囁くもの』に、「本来なら頭のあるところに一種の渦巻形をした楕円体がのって」いる謎の生物(ミ=ゴ)の目撃談がある。

ロード=アイランド病院から持ち出した脳味噌
 H.P.ラヴクラフトはロード=アイランド病院でその生涯を閉じた。なお、うしとらさんの「デモンベイン 元ネタ集」によれば」《これをもとにした話が「アーカムそして星の世界へ」フリッツ・ライバー/「クトゥルー 4」で、これのパロディがゲーム中のシーンというわけ》ということである。

ウィップアーウィル
 《そしてまた、昔から住みついている者たちは、暖かい夜に啼きたてるウィップアーウィルという夜鷹の一種に、はなはだしい恐怖を抱く。この鳥は魂を下界に導く案内者とされ、死にゆく者の魂を待ち、いまはの際の苦しい息づかいに合わせて不気味な啼き声をあげるのだという。肉体を離れるときに、逃げゆく魂をとらえることができると、さえずりを悪魔めいた笑いにしてたちまち飛び去ってしまうが、とらえそこなうと、落胆してしだいに黙りこんでしまう。》(『ダニッチの怪』、大瀧啓裕訳)

それ以外の角度に
 「角度」はラヴクラフトがしばしば用いたモチーフ。

くぐもった、狂おしい太鼓の連打。
単調な、冒涜的なフルートの音色。
 《下劣な太鼓のくぐもった狂おしき連打と、呪われたフルートのかぼそき単調な音色の只中、餓えて齧りつづけるは》(『未知なるカダスを夢に求めて』)
盲目の不定形、
零知の完全、
 《万物の王である盲目にして白痴の》(『闇をさまようもの』)
 《最下の混沌の最後の無定形の暗影》(『未知なるカダスを夢に求めて』)
煮え滾る核、
 《なべての無限の中核で冒涜の言辞を吐きちらして沸きかえる、》(『未知なるカダスを夢に求めて』)
 《角度ある空間の彼方に存在するすさまじい核の混沌》(『闇に囁くもの』)
「──神?」
 《盲目にして白痴の神アザトース》(『闇をさまようもの』)
 ここでは、ある種の「角度」を通じてのアザトースとの邂逅、という主題が、H.P.ラヴクラフト『魔女の家の夢』から借りられている。


(以下、ノーマルED)
反応炉の中の宇宙
 たとえば光瀬龍『百億の昼と千億の夜』。

万物の王様が、盲目にして零知の神様が見る、泡沫の夢
 《万物の王である盲目にして白痴の神アザトース》(『闇をさまようもの』)。
 この宇宙はアザトースの夢である、という(ダンセイニ『ペガーナの神々』のような)説があるようだが、典拠不明。

爆誕
 映画『ポケットモンスター 幻のポケモン ルギア爆誕』から。

ぐれーと・おーるど・わん Great Old Ones
 《偉大なる古き神々》(『クトゥルフの呼び声』宇野利康訳)、〈大いなる旧支配者〉(『狂気の山脈にて』大瀧啓裕訳)等。また、日本人の作家は「旧支配者」に「グレート・オールド・ワンズ」というルビを振ることが通例であるようだ。クトゥルー神話の邪神の総称として用いられることが多い語である。

額が裂けた様に第三の眸が焔えている
 『闇をさまようもの』でのナイアルラトホテップの姿の形容に「三つにわかれた燃え上がる眼」(『闇をさまようもの』大瀧啓裕訳)あるいは「三つの水晶体を持った、燃える眼」(荒俣宏訳『闇に這う者』)。

えるだー・ごっど Elder Gods
 旧神。オーガスト・ダーレスの神話作品において、邪神(旧支配者)を封印した存在。